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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
まえがき

 もう二十年ほども前のことであろうか。あるとき、突然私のライフワークはなんであろうかとの疑問が浮かんだ。当然のことながら、なかった。今にして思えば、ちょうどそのときは、五十代も半ばを過ぎ、還暦も目前にちらつき始めた頃のことで、このままで人生を終わるよりも、何かライフワークをもちたいという思いが募ってきたからであろう。そこでどうしたらライフワークがもてるだろうかと考えてみた。その結果、とにかく本を読んでみようという気持ちになり、手当たり次第本を読み始めた。

 もちろんそれまでも本を読んでいたのであるが、このときは重要と思った事柄については、ルーズリーフにメモをすることとした。例えば、カナディアン・ロッキーに関することがあれば、一枚のルーズリーフのトップに「カナディアン・ロッキー」としてカナダのファイルに入れ、また世界の最高峰エベレスト登山に成功したニュージーランドのエドモンド・ヒラリーについては、山のファイルの中に入れた。このようにして勉強をしたが、私のライフワークを見つけることはできなかった。

 昭和五十六年地域振興整備公団に勤務していたとき、東北電力株式会社勤務の話があり、私は、同年六月から東北電力勤務となり、仙台に移り住んだ。
 それまで東北のことについては勉強して相当知っているつもりであったが、仙台に移り住んで東北の歴史、文化、風土などを勉強してみると、ほとんど皆知らないことばかりで、しかも素晴らしいことが多かった。そこで私の心の中に、この東北を勉強して、世界を含む東北以外の方々にPRしたいとの思いが湧いてきた。

 これが、いうならば、私のライフワークとの出合いである。

 ちょうど都合のよいことに、東北電力においては、経営理念として、経営の効率化とともに、「地域繁栄への奉仕」があり、組織として地域開発推進協力本部が設けられ、私はその仕事を担当することとなった。この仕事は、例えば、企業誘致とか、一村一品運動とか、国際会議を誘致するといったもので、私は経理とか、営業とか、総務などの仕事と平行して、取り組んだ。つまり、私のライフワークが、私の会社の仕事と重なったのである。

 こうしたことから、企業誘致のため、東京の会社の重役さんのところにときどき出掛けたものである。しかし、セールスの経験もなく、かつ、セールス学も学んでいない身とて、大変難しく、セールスの最中に絶句することがたびたびあり、話の途中で帰らざるをえないこともたびたびあった。そこでそのようにならないためにはどうしたらよいかと考えて、頭の働きをよくすることが大切と思い、ちょうど当時千葉大学の先生をしておられた多湖輝教授の「頭の体操」を、実際にやってみようと考え、そのためには身近なことに疑問をもち、調べ、考えることが必要だと思った。もう一つ、本文でも出てくるが、アメリカにミッションを組んで企業誘致に出掛けたとき、いろいろのことを学んだ。なかでも特にアメリカにはジョークやユーモアがあることを知り、東北にもこれらを導入することが必要ではないかと考えた。そしてそのためにはやはり頭の働きをよくすること、つまり頭の体操を絶えずすることが大切と思った。

 だが、それだけでは、何か欠けるものがあるような気がした。それは、笑いとか、感動とか、心の豊かさといったものである。私はこれを「心の体操」ということにした。そして、頭の体操と心の体操が融合したものが、ジョーク、ユーモアではないかと思うに至った。

 あるとき、私は平凡社東洋文庫の 『菅江真澄(すがえますみ)遊覧記』 のあることを知った。彼は今から約二百年前、愛知県を出て東北の各地を巡り、庶民の生活に光を当てて旅の日記を書いた人で、かの柳田国男によって世に解介された人である。読んでいくほどに、彼の著作を通じて私が一番強く感動した点は、書物を書く、ということであった。私も書いてみたい、と思った。

 ちょうどこの前後に東北通商産業局の方と話をしていたとき、なんということなしに、同局の月報誌『東北通産情報』 に「みち」というタイトルで毎月随筆を寄稿することになった。昭和六十三年(一九八八年)四月から、平成八年(一九九六年)の三月までの八年間、途中一年三カ月中休みをしていたので、合計八十一カ月、八十一回の連載となった。これらの中から取捨選択し、若干の修正を加えたものが、本書である。今読むと、内容に古さを感じる部分もあるが、連載当時の雰囲気を守るため、あえて修正は最小限にとどめた。

 本書の構成は、大きく分けて三部からなる。第一部は、「東北の歴史・文化・風土」であり、第二部は「東北新時代」、第三部は「身辺断章」である。第一部の第一章は、新潟県を含む東北七県にまつわる総括的な紹介である。第二章では、文化と産業を歴史的に述べ、第三章では、そうした歴史の中で、わが国はもちろんのこと、世界的な偉業をなし遂げた支倉常長(はせくらつねなが)についていろいろな角度から述べている。第二部第一章では一転して、現在東北各県において積極的に展開されている地域づくりをとりあげ、第二章では、これまで地域づくりの主力をなした企業誘致に触れ、第三章では東北から世界への情報発信について述べている。

 第三部は、「身辺断章」ということで、私が東京から東北へ移り住んで十六年ほどになるが、この間仕事において、また日常の生活において、頭の体操と心の体操をしながら(もちろん体の体操をも加えながら)、折に触れて考えたこと、あるいは実行していること、さらには思い出の数々をまとめた。第一章においては、笑いの効用について述べている。最近のベストセラーである春山茂雄著『脳内革命』も、こうした笑いの効用と関係があるのであろう。そしてわが国古来の生活の知恵として「笑う門には福きたる」の諺もあり、また山口県の防府市ではお笑い講もあり、ジョーク、ユーモアともからめ、今後重要視されるようになるのではなかろうか。第二章は私の趣味についてである。趣味をもつことを勧め、趣味を毎年一つずつ決めていくということにも触れている。第三章は、思い出の記で、私の父母のこと、軍隊時代のこと、戦後のことなどについてである。第四章では、「豊かに生きるために」ということで、趣味とか生きがいについても触れているが、私がこれからの問題として大切に思っている心の豊かさについても述べている。これはあまり議論されていないが、司馬遼太郎の言うところの「名こそ惜しけれ」「感謝する心」「足るを知る心」「謙譲の心」などである。

 私が東北に移り住んでから今日までの永い間、終始東北電力に、そして後半は東北経済連合会にお世話になり、東北のことを勉強し、考え、東北のために仕事をする機会を与えられたことを、非常に感謝している。そして今は亡くなられたが、私を東北に招いてくださった若林彊元会長、また東北の一体化を身をもって示してくださった、今は亡き玉川敏雄会長に深く感謝の意を表したい。そして特に、東北から、日本はもちろんのこと、世界への情報発信に努められ、本書の出版を激励してくださり、「刊行によせて」の玉稿を頂戴した、東北経済連合会・明間輝行会長、さらには折に触れて励ましの言葉を頂戴している東北電力・八島俊章社長に対して、限りない感謝の意を表して、まえがきとしたい。