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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
阪神大震災に思う

 世論調査によれば、もう数年前から物の豊かさよりも心の豊かさを求める傾向になっている。しかし心の豊かさとはなんであろうか。例えば、よく豊かさが実感できる生活といわれるが、これは物の豊かさをいっているのではないだろうか。だから心の豊かさということにはならないと思う。

 私は心の豊かさとは、思いやりの心、名を惜しむ心、もったいないと思う心、足るを知る心、感謝する心、謙譲の心などではないかと思うが、こうした心は今の日本人の心からはなくなっているのではないだろうか。

  それならば、どうしたら心の豊かさをもてるのであろうか。私はそれは家庭の教育、つまり躾ではないかと思う。この点について、いささか資料は古いが、平成五年九月に発表の青少年と家庭に関する総理府調査がある。これは、同年五月全国一万人の成人を対象にしたものである。これによれば、

1家庭の躾は低下しているかの質問に対し、そう思うと答えた人が約七五%もあった。

2そう思うと答えた人に対して、どの面で低下しているかとの質問をしたところ、
 1 挨拶等基本的な生活習慣 五五・四%
 2 根気強さ 四七・二%
 3 お金や物を大切にする心 四五・一%

3そう思うとした人に対して、家庭の教育力(躾)の低下原因は何かとの質問をしたところ、
 1 過保護の親の増加 六四・九%
 2 教育に無関心な親の増加 三五%
 3 外部教育機関への依存 約三〇%
 4 親子のふれ合いの機会の不足 約三〇%
という結果が出ている。

 これによって国民の多数が、家庭の躾の低下を深刻に受けとめていることがわかるが、昨今のいじめの原因も前述3の躾の低下の原因とよく似ているので、びっくりしている。

 ところで去る一月十七月の阪神大震災はまことに痛ましく、亡くなられた方々に対し、ご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災者の方々に心からお見舞い申しあげるものであるが、私のいう心の豊かさが随所に見られた。

 例えば、生き埋めになっている人を近所の人が助け出した話とか、ボランティアが多数活躍していることとか、義援金の振出や献血等、私たちの感動を誘う話題が随所に見られる。

 これを外国ではどのように見ているかというと、中国の全国紙『光明日報』 は、「重大な地震被害の中で落ちついている様子は、感服に値する」と絶賛しており、韓国の『朝鮮日報』が、「被災者が秩序意識を見せたのは、日本人が和の精神を学んでいるためだ」と絶賛しているなど、外国紙は総じて賞賛を惜しまない記事であった。

 私は最初に、日本人は最近私のいう心の豊かさが欠けてきたのではないかと申し上げたが、今回の地震のごとくいったん緩急の際には十分に心の豊かさが発揮されることが実証された。それならば、平常のときにおいても、そのようになれないであろうか。そのためにはふだんから家庭の躾が大切であろう。