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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
復員後のこと

 『ひよわな花・日本−日本大国論批判−』(サイマル出版会)の著者、アメリカの軍事評論家プレジンスキー氏は、『アウト・オブ・コントロール−世界は混乱へ向かう!−』(草思社)という本を著しておられる。これは、ソ連の崩壊に始まって、民族紛争、宗教紛争が勃発し、世界が大混乱の状態にある傍ら、貧富の差はますます甚だしくなり、加えて欲望の過度の追求から人々の精神的な荒廃が激しくなり、もはや Out of Control の状態である、これを救うためには、新しいモラル、自己制御のモラルを打ち立てる必要がある、というものである。

 ところで、私が英語を習い始めてから、約六十年経つが、読み書きはできても、いまだに会話はできないという状態である。しかもその読み書きすらも、最近は単語まで忘れ始めた。そこで、また英語を勉強しょうと思い立った次第であるが、ここで、この際私の英語にまつわる思い出を書いてみたい。

  私は終戦後戦地から引き揚げ、いわゆる復員してきたのであるが、そのとき戦地の占領軍から日本に持って帰る荷物の検査を受けた。荷物といっても貴重品若干と身の回り品などである。これらをリュックサックに入れて検査を受けたのであるが、生来私は整頓能力がないので、身の回り品などをリュックサックに押し込んだという形で、私の番となった。

  ほかの同僚と同じように私も胸がドキドキしていたが、検査官は私のリュックサックをちょっと見ただけで、“You are dirty.(お前は乱雑だ)You are stupid!”と言っただけで、ほかの同僚と違い無事難関を通過することができた。整頓下手という短所もそのときばかりは長所ともいいたくなるほどであった。

 軍隊から復員して大学に復学したとき、私は進駐軍に勤めた。仕事は日本文を読んで、一定の事項につき英訳することであった。この仕事は単調そのものであったので、同僚の多くは居眠りしたりしていた。そこで私も居眠りしようと思い、机の上に標識を立て、“It's my turn to take a nap.”(今度うたた寝をするのは私の番だ)と書いたところへ監督官が来て、もってのほかといって叱られた。そのとき私は間髪を入れずに、ターンには順番という意味があることを知らなかったので、応用練習をしていました、と言ったところ、お許しをいただいた。私にこんな咄嗟の機転の才能があるとは思ってもみなかったことである。

 あれからもう五十年、特に最近はすっかり英語から遠ざかってしまったので、英語についてはコントロールがきかない。こういう場合も「アウト・オブ・コントロール」といっていいのであろうか。

 それにしても「ターン」という言葉はいい言葉である。そこで今の私の仕事とからめてもう一つ応用練習してみると、“It's Tohoku's turn to take a leading part in Japan.”(日本をリードするのは私たち東北の番だ)という言葉が思わず出てきたが、私たちがインテリジェント・コスモス構想や東北ベンチャーランド運動を推進し、あるいは新しい国土の軸(いわゆる第二国土軸)形成を進める場合においても、このような気構えが必要ではなかろうか。