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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
短歌との係わり

 私は趣味をたくさんもっている。今やめているのも入れると、二十五ほどある。例えば、読書、テニス、水泳、ヨガ、太極拳、囲碁、短歌、カラオケ、ダンス、日本舞踊といった類いである。それに最近は毎年一つずつ趣味を決めている。昨年は手紙を書くこと、一昨年は「メイ・アイ・ヘルプ・ユー?」で、外国の方に、何かお役に立つことありませんか、と声をかけることであったし、今年は童謡を歌うこと、来年は「感動」である。

 こうした中で心になんとなくこだわりをもつのは、今はやっていない趣味のことである。その代表的なものが短歌で、遂に再開することにした。そこで、これから私と短歌の係わりについて述べてみたい。

 私は昭和二十年代に約五年間入院した。ちょうど通産省に勤めていた頃である。このように長く入院していると、社会との関係もなくなってしまう。そこでなんとか自分を表現したいと思って選んだのが、短歌である。佐藤佐太郎先生の「歩道」に入会したが、何しろ入院の身であり、安静にしていなければならないので、上達も意の如くならなかった。このような段階のときに病気も治り、職場に戻った。

 職場に復帰してみると、仕事も忙しく、短歌を作る暇もなかなか見つけにくくなった。それに仕事をするときには、考えれば何か出来上がるのであるが、短歌のときには頭を使う部分が違っているせいか、いくら考えてもできない場合が多く、そんなことでなんとはなしに、短歌から遠ざかってしまった。

 あれから約三十五年経った約二年前、ふとまた短歌をしてみたくなった。どうしてかと考えてみると、心に得た感動をなんとか表現してみたいと思うようになったからである。とはいっても仕事をもつ身であるので、本格的に取り組むこともできず、毎朝広瀬河畔の散歩のときなどに、歌を作るといった程度である。

 そうした中で作った歌を披露したい。

 我等四人 戦に征きて 還りたるに
   残りし弟は 胸病み逝きぬ

 第二次大戦で兄二人は北支へ、私と弟は南方に征き、みな生きて還ったのに、銃後の弟は、昼間勤めて夜学に通う生活の無理がたたって、二十歳の若さで亡くなってしまった。私はその弟に何もしてやれなかったことを深く後悔している。

 若く逝きし 父の記憶は 少年の
   我に将棋を 負けてくれしこと

 父は電柱に登って作業することを職としていた。人柄のいい人であった。父の父も若く亡くなった由で、したがって父は私たちをかわいがってくれた。そのときの光景である。

 私は、二十一世紀のキーワードは、地球環境の保全とともに、「感動」と思っている。そして感動は、音楽や画、旅行など、他からも与えられるが、一日一善など自らの行為によっても得られると考えている。そしてその根底には感謝の気持ちが必要だと思っている。そのように考えて、これからも感動を求め、短歌を作っていきたい。