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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
東北発見の旅

 日本の観光を考える百人委員会という組織が東京にある。これは、国会議員および運輸省OBで観光に関係のある方々、観光業者、ホテル業者等を会員とし、今年[平成七年]の五月八日、福島県の須賀川市で第四回委員会が開催された。私は講師を依頼され、「東北と観光と感動と」というテーマでお話をした。

 その中で私は、東北の歴史と現状を述べた後で、観光とは光を観(み)ることであり、その光を観るとは、自然の美しい光を観、人工の美しい光を観、人間の美しい心の光を観ることであって、それらによって感動することであり、さらに述べれば観光とは、「勘考」することであって、観光しながら静かに自分をみつめ、人生を考えることである。こうした感動と勘考をわれわれに与える観光は、とかく万事金で判断し、利便性に走り、思いやりのない今の世相に対し、新しいライフスタイル、あるいはモラルを提供するものではないか、と申しあげた。

 この感動に関連して、岩手県田之畑村の例をお話しした。あるとき、アメリカの観光団が田之畑村にやって来た。どうしたことか、その中の二人が道に迷ってしまい、途方に暮れていた。そのとき農家の年寄りがこれに気づいて、四キロメートルもある宿泊所まで二人を送り届けたという。二人のアメリカ人は非常に感動して、田之畑村の準村民になったといわれる。

 もう一つは、財団法人東日本鉄道文化財団(住田正二理事長)のイベントとして、二月の一番寒いときであったが、在日留学生二十名に対し、四泊五日の東北発見の旅を実施し、その結果についてのシンポジウムが行われた。そのときカナダ人の留学生から、
「日本で一番寒い東北で、日本で一番暖かい心のもてなしを受けた」
 との発言があった。

 ところで、この留学生のシンポジウムで、私は挨拶をした。その中で、わが国の留学生の歴史を述べることとし、遣隋使から遣唐使に至り、明治では主として欧州、戦後はフルブライト奨学金で米国に行き、帰国後留学生たちはわが国のため非常に貢献した、皆さんもよく勉強されて日本との親善の実を上げ、母国のために尽くされたい、と述べた。

 私の話が終わったとき、日米学生会議の日本側議長から、
「日米関係では、フルブライトのほかに日米学生会議がある。宮澤元総理夫妻もそのメンバーであった。日米で一年ごとに開催され、今度は米国で開催する」
 と言われた。
 この話を聞くや、ただちに私は、
「それではその次はぜひ仙台で開催されたい」
 と要望した。

 その後、この話は日米学生会議事務局と、仙台コンベンションビューローとの間において折衝がなされ、東北日米協会(亀井昭伍会長)、仙台市役所、宮城県庁、東北の経済界等の絶大な協力により、この七月二十六日から仙台においても開催されることとなった。これは大変ありがたいことで、私はこの成功を祈るとともに、これを契機として仙台が国際都市としてさらに発展することとなり、さらに述べるならば、仙台が日米親善の枢(とぼそ)となり、要となることを、念じてやまない次第である。