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東北見聞録 歩く・会う・語る・住む
黒田四郎 著
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立ち読みコーナー
コロンブスと常長

 もう五十数年前にもなるが、私は学校で西洋史を習っていたとき、とても楽しく、一生歴史を勉強し続けたいと思ったことがある。しかし半面において、当時はまだ今のように頭の体操をすることも知らなかったので、多くの場合丸暗記したものである。例えば英国憲法の基礎となったマグナ・カルタは一二一五年であるから、「イチニイゴ」と覚え、コロンブスの新世界発見は、一四九二年だから、「イシクニ」と覚えた。

 ところで、今年[一九九二年]コロンブスの新世界発見から五百年目の年であり、これを記念してスペインのバルセロナでオリンピックが開かれた。またコロンブスの乗ったサンタマリア号の復元船が、角川書店社長らによって建造され、バルセロナを発って中南米に寄港し、神戸到着というプロジェクトなど、多くのイベントが行われている。

 コロンブスは、一四五一年イタリアのジェノバに毛織物職人の長男として生まれた。ジェノバはイタリア半島の西のつけねにあり、東のつけねのベネチアとともに、地中海を舞台とする貿易都市国家であった。このような環境に育ったから、彼は海と船にあこがれる身となった。あるときフィレンツェの地理学者トスカネリから、
「地球は丸い。だからマルコ・ポーロの 『東方見聞録』 に出てくる黄金の国ジパング(日本)や、香辛料のインドに達するには、アフリカを回るよりも、西へ進んだ方がずっと近道だ」
 との手紙を貰った。

 彼はこの言葉を信じて、一四九二年スペインの西岸バロス港から出帆して、新世界を発見している。だから私は、彼の新大陸発見の大きな動機の一つは、日本の金であり、しかも一二九九年に世に出た『東方見聞録』は、東北の金に触れているので、コロンブスと東北とは非常に関係が深いということができるのではないかと思っている。

 一六一三年、宮城県の月の浦を出帆した支倉常長(はせくらつねなが)一行は、ローマ法王に謁見するとともに、帰途スペイン皇帝に謁見すべくセビリア近郊に長期滞在している。このセビリアには、コロンブスの息子ディエゴが書いた彼の伝記などがあるコロンブス館がある。おそらくはコロンブスの死後百十年ほどしか経っていないから、常長は彼の偉業を耳にしていることであろう。そして常長は帰国後二年間を不遇のうちに過ごしてこの世を去るのであるが、コロンブスも悲劇のうちに晩年を終えているので、その生涯がたぶん常長の胸に去来したことであろう。

 ところで前述のサンタマリア号については、岩手県大船渡港がその寄港を熱望しているようであるが、これは死ぬまで新大陸をアジアと思いこんでいたコロンブスのアジア大陸到達の願いを叶えさせるものであり、またジパングの中でも当時金を産していた東北への彼のあこがれを達成せしめるものであるので、ぜひとも実現してもらいたいものである。